1:早苗篇

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俺が幻想入り? First story 東風谷早苗
僕が幻想郷に来てもう半年以上の月日が流れた。
洩矢さんの神社で変える方法が見つかるまで一緒に住まわせてもらっているがいまだに帰れる目処が立っていない。
最初の頃は必死に帰る方法も探していたが、今となっては帰れなくてもいいかもしれないと思い始めている自分も居る。
すっかり見慣れた畳部屋(諏訪子さんが準備してくれた寝室)の天井を見ながらぼ〜っとしていると
諏訪子  「お〜い。朝ごはんだって〜」
僕の返事をまたずに襖をがばぁっ! と開けてきた。
主人公  「おはようございます。諏訪子さん」
諏訪子  「おはよっ。ごはん〜♪」
小さな神主が抱きついてきそうな笑顔で近寄ってくる。
主人公  「あ、はい。すぐに準備します」
上半身だけ起こしていた体を起こして布団をたたむ。
その間日曜日の朝に父親を起こす子供のように僕の周りをくるくると諏訪子さんが回っていた。
布団をたたみ終え居間へと向かうと
神奈子  「ん、起きたかい? おはよう」
主人公  「おはようございます。神奈子さん」
諏訪子  「あれぇ〜? 早苗は?」
神奈子  「あぁ、早苗かい? 早苗は台所で何か作ってるみたいよ。さっき台所に行ったら」
早苗   「朝ごはんは食べて置いてください。ちょっと私は用があるので……」
神奈子 「って、言ってたわよ」
主人公  「一体、何をしてるんでしょうか」
神奈子  「新しい料理でもしてるのかしら」
諏訪子  「まぁ、い〜じゃん。ごはんたべちゃおう〜」
ちゃぶ台の上には既に食事の準備が終えてあり。あとは食べるだけになっていた。
諏訪子  「いっただっきま〜す!」
2人   「いただきます」
諏訪子さんに少し遅れて両手を合わせ。食事をはじめる。
幻想郷に来てから洋食を食べる事がほとんど無くなったなぁ。
元々和食好きだから別に困ってないけどたまには洋食も食べたいな〜と思いながら紅鮭の切り身を一口食べる。
主人公  「やっぱ早苗さんの料理は美味しいな」
この場に居ない作り主に賛美の言葉を送る。
なんだかんだ言っても結局早苗さんの作る料理は美味しいので食べてしまう。
隣で諏訪子さんがガツガツとご飯をかき込んでいるのを見ながらゆっくりとご飯を食べていると、
神奈子  「お前さんが居る光景もすっかり馴染んだねぇ」
しみじみとそんな言葉を言う。
主人公  「そうですか?」
諏訪子  「もう、家族だよ〜」
神奈子  「だねぇ、どうだい? ここで暮らすのは」
主人公  「なんか帰れる気がしないので、できればずっとここに居たいんですけどいいですか」
少し遠まわしに答える。
帰る方法を探していたのだって最初の1ヶ月くらいだ。
諏訪子  「歓迎歓迎♪ 」
ほっぺたにご飯粒をつけながら笑顔で答える。どうやら気付いていないような
主人公  「諏訪子さん」
諏訪子  「なに〜?」
主人公  「ほっぺにご飯粒ついてますよ」
ほっぺについているご飯粒を手で取りながら返事をすると
諏訪子  「えへへ〜」
子犬のような笑顔で返事(?)をした。
指に付いたご飯をどうしようと悩んでいると
諏訪子  「ぱくぅ」
主人公  「っ!?」
突然指が生暖かいものに包まれる。つい反射的に手を引いてしまうが既に諏訪子さんがごはん粒を食べた後で、指には諏訪子さんの唾液がべっとりとついていた。
諏訪子  「えへへ〜。ごめんごめん」
主人公  「いえ、平気ですけど驚きましたよ」
ハンカチで手を拭いていると
神奈子 「諏訪子もこんなに懐いてるしねぇ」
確かに最初は少しだけ遠慮がちだった諏訪子さんもこんなにも懐いて……ちょっとだけペットみたいに思うときも……ね?
主人公  「ただ、ずっとここに居てもただ飯食らいみたいで……」
せめてものと思って早苗さんの家事を手伝っているのだが実際は、自宅警備とやっていることが変わらない。
神奈子  「まぁ、ここは幻想郷だら、そんなに気にする事ないわよ。ほら、どこかの巫女さんはいつも暇そうにしてるし」
主人公  「ははは、霊夢さんですね」
いつものように団欒しながら食事をして、片付けようとすると
早苗   「あ、お皿はここにおいて置いてください。私が片付けておきますから」
主人公  「ん? 忙しいなら手伝おうか?」
少しでも手伝う事があるならやりたいのだが……。
早苗 「いえ、台所には入らないでください。お願いします」
(>−<)←こんな顔されたら無理矢理押し入る事なんてできない。
主人公 「はぁ……」
早苗   「ごめんね〜」
と、言いながら食器を持って台所へと下がっていく早苗さん。
なにをしよう。
掃除でもしようかと思い立ち上がると
諏訪子  「遊ぼ〜」
小さな神様にくっつかれた。
主人公  「いいですよ。何します?」
諏訪子  「チルノいじめ〜」
主人公  「それはやめておきましょう」
諏訪子  「じゃあ、霊夢のとこ!」
主人公  「はい、行きましょうか」
神奈子  「はいよ〜。いってらっしゃ〜い」
諏訪子さんの後を追い神社を駆け出していく。
主人公  「飛んでいかないでくださいね」
先行く諏訪子さんに声を掛けておく。
諏訪子  「あ、……うん。もちろん、忘れてないよ」
あ、って聞こえた……。俺は人間だから歩くしかないんだよ。
飛べるのうらやましいな……。俺もいつか魔法とか使えるようにならないかな〜。
なんてことを考えながら、諏訪子さんと一緒に博麗神社まで歩いていく。
そんなに遠くも無いので歩いて十数分もすればついてしまう。主人公  「ぜぇ〜ぜぇ〜」
博麗神社にたどりついた頃には、冬とはいえあの長い階段を上っていると汗もかく。
諏訪子さんは飛んでいたが……。
神社の境内に入ると
霊夢   「あら、いらっしゃい。お賽銭でも入れてくれるの?」
主人公  「今日は、お賽銭は入れますけど。諏訪子さんが遊び相手を探してて」
諏訪子  「霊夢〜、遊びに来たよ〜」
霊夢の姿が視界に入るが否や飛びつきにかかる諏訪子さん。
小銭を取り出し賽銭箱に投げ込む。
霊夢   「まいどあり〜。せっかく来たんだしお茶でも飲んでく?」
主人公  「あ、はい。お邪魔します」
霊夢さんの家に行くと、みんなが集まりやすいのか誰かが居る事が多い。
魔理沙   「お、普通の人間とカエル様じゃないか」
居間に入ると数少ない人間仲間の魔理沙さんがいた。しかもお茶菓子にお茶まで準備して。
諏訪子  「ケローッ!」
霊夢にくっついてたケロちゃ……諏訪子さんが魔理沙さんに飛びついた。
魔理沙  「おわっと」
見事に諏訪子さんをキャッチした魔理沙さんに挨拶をする。
主人公  「魔理沙さん、こんにちは」
僕が挨拶をすると
魔理沙  「あの、さ」
魔理沙さんが少し気まずそうにして返事を返してくる。
主人公  「?」
魔理沙  「そろそろ『さん』つけるのやめろよ。なんかくすぐったいからさ」
主人公  「いいの?」
魔理沙  「あぁ、なんか丁寧な言葉遣いだとな」
主人公  「わかった、魔理沙。これでいいかな?」
魔理沙  「おう」
霊夢   「私も呼び捨てでいいわ」
追加のお茶菓子とお茶を持って霊夢さんが入ってくる。
主人公  「霊夢」
霊夢   「うん、それでいいわ」
満足そうに笑って、畳の上に座る霊夢。そのままお茶菓子の中からお煎餅を取り出し諏訪子さんに与えていた。
諏訪子  「ばりばり、ぼりぼり〜」
気持ちいいほどいい音を立ててせんべいを食べている。
僕もお煎餅を食べる。
主人公  「今更ながら、元の世界では考えられないほど凄いメンバーだよな」
魔理沙  「ん? 何がだ?」
主人公  「ほら、この部屋に今居るのって、神様と魔法使いと、神社の結界を守る巫女でしょ?」
魔理沙  「あぁ、そうだな」
主人公  「俺の居た世界じゃ、こんなことありえないからな。ちょっと特殊な能力がある人がいるくらいで」
霊夢   「早苗と同じ世界の人だっけ」
主人公  「うん、そうみたいだね。国も同じだったし」
詳しい話は知らないが、元々早苗さんは僕と同じ世界の人だったらしい。
それを神奈子さんにつれてこられた(?)だとか、現人神としての力は僕の居た世界でもあったみたいだけど……。
そういえば、こっちの世界に来た頃戸惑ってた僕に親身になって接してくれたのは早苗さんだったな。
魔理沙  「やっぱり、そっちの世界とこっちってぜんぜん違うのか?」
主人公  「そうだね、俺の居た世界は機械にまみれてたからな」
魔理沙  「機械ってあのカッパが作ってるやつみたいのか?」
主人公  「そんな感じ」
魔理沙  「すげーな、俺も一度は行ってみたいぜ」
いつの間にか魔理沙のひざで寝ている諏訪子さんの髪(帽子から出ている部分の)を撫でていた。
主人公  「でも、幻想郷は居心地良いよ。みんな優しいしね」
親も友達もいない土地に放り出されてもこうして普通に生活してるのはみんなのおかげだよな。
霊夢   「ま、困っている人を助けるのは普通の事だからね」
何事も無くそんなことを言える幻想郷は本当に場所だからなんだろうな。
主人公  「もし、俺が元の世界に戻らないで幻想郷に居たいって言ったらどうする?」
魔理沙  「それはそれで、人生の選択肢の一つだと思うぜ」
霊夢   「どうしたのよ急にそんなこと言って」
主人公  「なんか、元の世界のことを思い出してね」
霊夢   「そう、まぁ、帰りたくないならうちに来なさい部屋なら余ってるから、かくまってあげるわ。もちろん仕事はしてもらうわよ」
そう言って霊夢さんは意地の悪い表情でウインクしてきた。
主人公  「霊夢、魔理沙。ありがとう。元の世界に戻る手がかりなんて全く見つかってないんだけどね」
お手上げのポーズをしてみせる。
??   「あの〜、すみません」
霊夢   「ん? 誰だろ」
霊夢が声のしたほうによると
霊夢   「早苗が迎えに着たわよ〜」
魔理沙  「だってさ」
主人公  「うん」
魔理沙  「ほれ、お土産だ」
立ち上がった俺に寝ているカエル神様ときのこの入った袋を手渡してくる。
主人公  「これは?」
魔理沙  「朝に採ってきたきのこだ。ちゃんと食用だから安心しろ」
先に袋だけ受け取り少し中を見てみると、結構な量のきのこが入っていた。多分3人で食べろってことだろう。
主人公  「ありがと」
お礼を言うと
魔理沙  「ま、おすそ分けだ。あと、こいつを置いていくなよ」
主人公  「ん、魔理沙。背中に乗っけて。おぶってくから」
魔理沙  「了解」
魔理沙が諏訪子さんを俺の背中におぶせてくれる。背中にかかる諏訪子さんのあまりの軽さに驚く。
主人公  「魔理沙」
魔理沙  「ん?」
主人公  「今日はありがとな」
魔理沙  「おうっ」
別れの挨拶を済ませ玄関に向かう。
主人公  「霊夢もまたね」
霊夢   「お賽銭入れてくれるならまた来ても良いわよ」
主人公  「了解」
霊夢   「じゃね」
手を振る霊夢に手を振り返し玄関を出る。
早苗   「あら、諏訪子様寝てらっしゃるのね」
主人公  「うん、いつの間にか寝ちゃってた」
早苗   「ふふ、諏訪子様らしい」
そう言いながら俺の背中で気持ちよさそうに寝ている諏訪子さんのほっぺたをぷにぷにとつつく。
主人公  「そういえば、早苗さんは朝何してたの?」
早苗  「えっ? あ、それは……今は……内緒です」
今は……ということならいつかは教えてくれるのだろうか?
いつまでもこの話題を引っ張るのも難なので
主人公  「早苗さんは、幻想郷に来たときどうだったの?」
本当に今日は元の世界のことを思い出す日だな。
早苗   「私ですか? 私は、心細かったりはしませんでしたね。神奈子様が一緒でしたから。でも、ドキドキはしていました」
主人公  「そっか、俺は知っての通り」
ここに来た時の事はあまり思い出したくない。あの時は、自分のいる場所が分からなくて、気が動転していたからなぁ。
早苗   「まさか、私と同じ世界の人がここにくるとは思ってもみませんでした」主人公  「俺もだよ、同じ『日本の人』がいるとは思ってもいなかった」
主人公&早苗  「しかも同じ高校生」
早苗   「ふふっ」
主人公  「はははっ」
夕焼けに染まりつつある幻想卿を3人で歩いていく(1人は俺の背中で寝ているが)
主人公 「ただいま〜」
早苗  「ただいま帰りました」
神奈子 「おかえり〜。おやおや、諏訪子は寝ちゃってるのかい」
主人公 「はい、ぐっすりと」
背中を傾けて眠っている諏訪子さんを神奈子様に見せる。
神奈子 「子供みたいだねぇ」
見た目からして明らかに子供だから。とは口に出さないでおく。
玄関まで出迎えた神奈子さまが背中で深い眠りに落ちている諏訪子さんの寝顔を覗き込む。
神奈子 「気持ちよさそうに寝ちゃって。そのまま寝室に運んで上げて」
主人公 「はい、わかりました」
早苗  「私はお夕飯の支度をしてますね」
主人公 「あ、早苗さん」
早苗  「はい。なんでしょうか」
主人公 「これ」
さっき魔理沙からもらった袋を早苗さんに渡す。
早苗  「これは……?」
袋の中を見ながら首をかしげた。
主人公 「魔理沙がおすそ分けだって」
僕がそういうと。満足そうに微笑んで
早苗  「分かりました。腕によりをかけて料理しますね」
そう言って、早苗さんは台所へと姿を消していった。
諏訪子さんを寝室に運んで、敷布団の上に寝かせて布団をかけてあげる。
全く起きる気がしないな。
くぅくぅと子犬みたいな寝息を立てて寝ている諏訪子さんの頬を指先でちょんちょんとつついてみる。
諏訪子 「ん……」
赤ちゃんのようなぷにぷにの頬をつついていても起きる気配がしない。
ん〜、かわいいなぁ。頭の帽子と目が合うと若干恐い気もするが……。
実はこの帽子が諏訪子さんの本体だったりして……。
なんてね。
頬をつつくのに満足すると諏訪子さんを起こさないようにそっと寝室を離れた。 居間へと戻ると
神奈子 「おかえり」
主人公 「ただいまもどりました〜。諏訪子さん、ぐっすりですね」
神奈子 「夕飯には起きるでしょ。諏訪子は」
あそこまでぐっすり眠っていても、必ず夕飯には起きているのが諏訪子さんだ
今まで一度も遅れたためしは無いし、諏訪子様の腹時計は確実なんだろう。
主人公 「お夕飯のお手伝いしてきますね」
神奈子 「あいよ〜」
今を出て台所へと入ると
早苗  「あれ? どうなさいました?」
早苗さんが煮物からこちらへと顔を向けた。
主人公 「朝は何もできなかったから、手伝おうかなと思って」
手を洗って早苗さんの隣へと並ぶ。
主人公 「これ、使って良いよね?」
早苗  「はい」
先ほどもらったばかりのきのこの中からしめじとえのきのようなものを選んで取り出す。きのこの石づきの部分をとって水に軽くさらす。
主人公 「前に霖之助さんのところで買ったアルミホイル残ってる?」
早苗  「あ、はい。ちょっと待ってて下さいね」
近くにある引き出しを開けて、中から丁度いいサイズに切り取ってアルミホイルを渡してくれた。
主人公 「ありがと」
アルミホイルで器をつくりそのの上にきのこを乗せて醤油をかけて
主人公 「ちょっと煮物味見していい?」
早苗  「どうぞ」
支え箸でよく煮えた大根を小さなお皿に乗せて渡してくれた。
それを手でつまんで1口で口の中に放り込む。
主人公 「ほふほふ」
熱々の大根を口の中で冷ましてごくりと飲み込む。
主人公 「うん、よく煮えてて美味しい」
早苗  「本当ですか?」
主人公 「うん、早苗さんの料理は本当に美味しいよ」
僕がありのままのことを言うと満面の笑みになり
早苗  「そんなにほめても何も出ませんよ」
主人公 「本当だって。早苗さんの料理の味は僕が保障するよ」
そういいながらお玉で煮物の出汁をすくい先ほどアルミホイルで作った器の中に加える。
早苗  「何をしてるんですか?」
きのこと醤油と出汁が入った状態でアルミホイルを上手く閉じてなべの中に入れる。
主人公 「きのこのしぐれを作ろうと思って。おかずと言うよりもおつまみみたいのだけどね。こうやって蒸すだけでできるから簡単だよ」
早苗  「そうなんですか? ちょっと食べてみたいですね」
主人公 「本当はだし汁とポン酢とかあると良いんだけど、多分これでも大丈夫だと思う」
確か、煮物に使った大根が残ってるだろうからそれで大根おろしでも作るかな
かって知ったるなんとか〜と言うが、すっかり洩矢家の勝手も覚えていて
冷蔵庫から大根を取り出しておろしを作る。
早苗  「前々から思ってましたけど、結構料理手馴れてますよね」
主人公 「そうかな、家にいるとき料理作ってたからかな」
早苗  「そうなんですか〜。私も家で料理してたんですよ」
主人公 「それだけ上手で、幻想郷に来てから料理始めました。なんていわれたら料理人顔負けだよ」
早苗  「そんなことないですよ」
ふたりで話をしながら魔理沙からもらったきのこを大量につかってきのこ尽くしの料理を作った。料理が完成する頃には諏訪子さんも起きて、料理をちゃぶ台に料理を並べると。
神奈子 「おぉ、なんかきのこ尽くしだね」
早苗  「魔理沙さんが、新鮮なものをくださったので」
諏訪子 「おぉ、早苗の料理はいつ見ても美味しそうだねぇ」
主人公 「今日のは、僕も作りましたよ」
諏訪子 「なんとっ! どれどれ〜」
身を乗り出して料理を覗き込む諏訪子さんに
主人公 「ちょっと待って下さいね」
お皿のままにおいてある包みをそっと開く。あけると中からきのこの香りと煮物の出汁と醤油のたれの匂いがむわっと蒸気と共にあふれ出る。
諏訪子 「おぉ〜」
中身を見るとどうやら上手にできたようで、包み焼きのきのこの上に大根おろしを乗せて輪切りにした柚子をしぼって香りをつける。
諏訪子 「神奈子。すごいおいしそうだよ」
神奈子 「変わった料理だね。故郷のかい?」
主人公 「はい、ちょっと作ってみました。早速食べましょうか」
手を合わせていただきますをする。
まず最初に、しいたけともやしと油揚げで作ってある和え物を一口食べてみる
主人公 「ん、少し胡麻の風味がして美味しいね」
早苗  「分かります? お醤油に胡麻を混ぜて風味をつけてみたんですよ」
主人公 「うん、美味しいよ。さっぱりしてて食べやすい」
味もしっかりとしていて、ご飯にも合う。きのこも新鮮なので弾力もあり、噛めば噛むほど口の中に独自の香りが広がる。
諏訪子 「早苗〜。この包んであるやつ美味しいよ〜」
諏訪子さんがぱくぱくと料理を食べていく。神奈子様も美味しいのか頬がほころんでいる様にも見える。
早苗  「私も一口いただきますね」
そう言って早苗さんがお箸で包み焼きを食べる。
何故だろうか。早苗さんが食べるときだけ少しだけ緊張する。口に合えばいいけれど。
つい、じっと口元を見てしまう。
早苗  「ん、美味しい」
早苗さんの口からその言葉がこぼれた瞬間心の中でガッツポーズをする。
早苗  「さっぱりしてて、食べやすいよ。これ」
主人公 「よかった。口に合ったようで」
朝とは違って4人で食事を済ませてた。
お風呂にも入りおわり後は寝るだけになった。
主人公 「ふぅ〜、今日もいい1日だったなぁ〜」
1人部屋のなかで布団の上に座り込み伸びをする。
まだあまり眠くないので少し外の空気でも吸おうと部屋に入ろうとすると。
(コンコン)
ふすまをノックされた。
主人公 「は〜い」
早苗  「夜分遅くにごめんなさい。早苗です」
僕はふすまを開けると
主人公 「どうぞ」
と言って、早苗さんを招き入れる。
早苗  「こんばんは〜」
何故か少しぎこちない挨拶をして、中に入り僕の隣に腰掛けた。
お風呂から上がったばかりなのか、髪がしっとりとしていて艶っぽい。少し上気した頬に濡れそぼった唇。
いつも見ている巫女服とも違う寝巻き姿なので色っぽく感じてドキドキと胸が高鳴ってしまう。
主人公 「えっと、こんな時間に珍しいね。どうかしたの?」
あまりじろじろ見るのも失礼かと思い少し目を逸らして話を振る。
早苗  「その……。特に大事な用事があるわけじゃないのですけれども……」
ちらちらと僕の目を見ては逸らす。そんな動作をしながら言葉を紡ぎだした。
早苗  「あ、あの。今日の夕方に内緒って言ったの覚えてますか?」
主人公 「うん、今朝のことだよね」
早苗  「はい、そのことです。そのことについてお話しようと思って……」
ぎこちなく話を続けていく早苗さん。
主人公 「別に無理して話さなくても……」
早苗  「いえ、今日じゃないとダメなんです」
主人公 「今日じゃないとダメ?」
何が今日じゃないとダメなのだろうか。今日何か大事な事でもあったのだろうかと考えるが特に思い当たらない。
早苗さんが、
早苗  「あの、今日はその……日本で言う2月14日です。ですから……。あの、これ……」
そういうと寝巻きのポケットのようになっている部分から小さな包みを取り出す。
主人公 「これは」
早苗  「幻想郷には無い行事ですけど、今日は……バレンタインですから。あの、えと、チョコレートを……作ってみました」
その包みを僕に押し付けるように差し出してくる。その手はぷるぷると震えてて……。
主人公 「早苗さん」
早苗  「は、はいっ」
主人公 「ありがとう」
早苗さんのてから包みを受け取る。
早苗  「いえ、こちらのほうこそありがとうございますっ」
何故か早苗さんのほうからお礼を言われた。
主人公 「あけてもいいかな」
早苗  「その……で、できれば、私のいないところであけてくださると……」
そういうが、僕の手は包み紙を開けた後で、中からハラリと一枚の紙が落ちてきた。
主人公 「?」
その紙を手に取り
早苗  「そ、その紙はっ、だ、ダメですっ」
早苗さんの言葉はむなしく、その言葉が僕の耳に届く事はなく。
僕の頭はその紙に書かれている内容を理解するので精一杯だった。
主人公 「あの……早苗さん?」
頭でその手紙に書かれているたった一言の言葉の意味をゆっくりとかみしめながら
早苗  「ひ、ひぅ」
主人公 「これって……」
早苗  「うぅ」
既に泣きそうになっている早苗さん。
その紙に書かれていた言葉とは……。たった一言。
主人公 「僕も……早苗さんと同じです」
だから、その言葉に返事を返す。
主人公 「僕も、あなたのことが……好きです」
早苗さんが口に出せなかった言葉を僕がそのまま返す。
手紙には『あなたが、好きです』と、丸っこくて可愛らしい字でそれだけ書かれていた。
早苗  「えっ?」
主人公 「僕も、早苗さんの事が好きです」
うつむいたままの早苗さんの手を両手で包み込む。
ぴくりと早苗さんの体が反応する。手を離されるかな? と思ったが、それは杞憂で済んだ。
早苗  「今仰った事は本当ですか?」
主人公 「こんなこと、冗談じゃ言えないよ」
包み込んだままの手にぎゅっと優しく力を込める。
早苗  「信じても……いいんですね?」
主人公 「うん。なんか、ごめんね。本当は男である僕から伝えるべきだったんだろうけど」
早苗  「今日は、女の子から伝える日ですよ」
主人公 「そっか」
早苗  「あの、でも、いいんですか? 私とあなたじゃ、本来住む場所が違うのですよ?」
僕は元々幻想郷の人ではない。
だから、僕には帰る場所がある。
でも、ここに暮らしていたら少しずつ考えも変わってきた。
帰る場所はあっても、帰らなければいけない場所ってわけでもない。
だから、早苗さんが許してくれるのならこの幻想郷でみんなと暮らしたい。
そう考えるようになってきた。
主人公 「そのことについてなんだけど。もう、元の世界に変えるつもり……ないんだ」早苗  「えっ?」
早苗さんが度肝を抜かれたような顔をした。
主人公 「早苗さんさえよければ、この幻想郷で暮らしたいな……と思う。家事の手伝いくらいしかできないかもしれないけれど」
早苗  「でも、友達とか家族とか心配していると思いますよ」
主人公 「うん、そうかもしれない。でも、それ以上に大事な人ができた」
早苗  「それって……」
主人公 「早苗さん、僕は、諏訪子さんや神奈子様をもう家族と思ってる」
主人公 「今じゃ早苗さんは僕の大切な人だ。一番大切な人を残して元の世界に帰れるわけ無いじゃないか……」
早苗  「……」
早苗さんが息を呑むのが分かった。
主人公 「だから、帰れなんて言わないでよね」
下から早苗さんの顔を覗き込む。
突如握っていた手を離される。
早苗  「言えるわけ無いじゃないですか、そんなこと」
離した手で突然僕の体を抱きしめられる。早苗さんの温もりと甘い匂いに包まれる。
早苗  「ここまで私を想ってくれる人に帰れなんて……。私だって、あなたのこと一目見たときから……」
まさか、一目惚れ? 僕に……。
早苗さんの唇から零れ落ちたその言葉が嬉しくて、僕も華奢ですぐにでも壊れてしまいそうな早苗さんの体を抱きしめ返す。
早苗  「あの、私のお願い。もう一つ聞いてくれますか?」
僕の耳元で早苗さんの声が聞こえる。
主人公 「なに?」
早苗  「このまま、今日は……一緒に寝てもらえませんか? 嬉しくて、この喜びを話したくないんです」
主人公 「うん、いいよ。僕も、早苗さんと一緒に過ごせて嬉しい」
早苗  「もう、早苗さんってやめてください。早苗って呼んでください」
主人公 「早苗、好きだよ。早苗」
さらさらの長い髪を撫でながら耳元でささやく。
早苗  「あ、はい。私も大好きです」
僕らはそのまま強く抱き合った。
早苗  「電気消しますね」
主人公 「うん」
パチンと音を立てて電気が消える。部屋の中を映すのは僅かな月明かりのみ。
月明かりが早苗のシルエットを浮かび上がらせる。
早苗  「おじゃましま〜す」
ゆっくりと僕の布団に入ってくる。
主人公 「ふたりだとちょっと狭いね」
早苗  「はい……」
主人公 「もう少し、くっつこうか」
早苗  「はい」
ふたりで一つの布団を共有する。
体を布団からはみ出さないようにすると自然と抱き合うような形になった。
そうなると自然と顔も近くなるわけで、お互いの吐息が当たるくらいまで近くなる。
早苗  「これじゃ、どきどきして眠れそうに無いです……」
主人公 「うん、すごいどきどきしてる」
早苗  「私の胸……当たっちゃってますよね」
主人公 「うん」
僕の腕にはふよふよと柔らかなものが当たっている。
早苗  「えっちな気分になっちゃたりします?」
主人公 「かもしれない」
左手で髪をすくようにして撫でる。
早苗  「それ、気持ちよくて安心できます」
主人公 「なら、もっとしてあげる」
さらさらと、月夜の光をまとい早苗さんの長い髪が舞う。
早苗  「ありがとうございます。これは、私からのお礼です」
そう言って。更にお互いの体の密着度が増して、その瞬間に唇にやわらかい感触が……。
早苗の甘い香りが鼻腔をくすぐった。僕は今早苗と触れ合っている……。
早苗  「えっちなことはダメですよ。でも、キスならいいですよね」
主人公 「うん。大丈夫だと思います」
そう言ってもう一度。今度は僕のほうからキスをする。
早苗  「ん、ふぁ」
目がとろんととろけてくる。ふたりだけの空間。誰にも邪魔される事のない……。
早苗  「私、ずっと夢でした。好きな人とこうする事。でも幻想郷に来てからは諦めてて。叶うなんて思わなかった」
大きな瞳からつぅっと一筋の光が頬をなぞる。
早苗  「だから……嬉しくて」
無言でただ彼女を抱きしめる。
僕の胸に顔をうずめてひっくひっくと涙をこすり付けるように、嗚咽を堪えて泣いていた。
しばらくして
早苗  「すみません。急に泣いちゃって」
主人公 「大丈夫だよ。それに、早苗に甘えてもらって嬉しかった」
早苗  「なら、これからもっと甘えても良いですか?」
そんなの答えるまでも無い。
主人公 「もちろん」
早苗  「じゃあ、今日はこのまま寝て良いですか?」
僕の服をぎゅっとつかむ。
主人公 「うん」
早苗  「ありがとうございます。何故かこうしていると安心して……」
そう言って、早苗は安心したのかすぅすぅと規則正しい寝息を立て始めた。
しばらくはおとなしくして、早苗が深い眠りに落ちたのを確認して。
こっそりとこの世界に来たときに持ってきていた携帯電話の電源を入れる。
どうせ電波が届かないと思って電源を切ったためまだ電池マーク2つだが残っている。
携帯電話の電源を入れてメール画面を開く。
もちろん圏外表示だ。
でも、アドレス帳から母親のアドレスを呼び出してメールを打ち込む。
内容は簡単に。
「母さんへ。突然居なくなってすみません」
「でも、僕は元気に暮らしています。今まで育ててくれてありがとうございました。」
それだけ打ち込んだ。
早苗  「誰かにメールですか?」
主人公 「あ、ごめん。起こしちゃった?」
寝ていたと思っていた早苗目を覚ました。
主人公 「でも、圏外だから無駄だよね。メールしようとしても」
早苗  「試しに送ってみたらどうですか?」
主人公 「うん、そうしてみる」
既に内容は打ち終えていたので、圏外のまま携帯電話の送信ボタンを押した。
どうせ無駄だと思っていたのに、メール画面は0%から100%までいって送信完了の文字が表示された。
主人公 「えっ?」
一体何が起きたのだろうか? アンテナなんて立っているはず無いのに……。
早苗  「私の能力は奇跡を起こす程度の能力ですよ」
そう言って優しく微笑んだ。
主人公 「奇跡を起こす……」
これは、早苗が起こした奇跡なのかもしれない。
早苗  「自分で意図的に起こせないのが難点ですけどね」
主人公 「早苗……ありがとう。これで、スッキリしたよ」
携帯電話の電源を再び落とす。
もう電源を入れることは無いかもしれないが、それを大事にしまい。布団の中に戻って。
主人公 「ありがとう、早苗」
早苗  「どういたしまして」
今、目の前で起きた奇跡に感謝し、早苗に唇にキスをする。
ただ、月明かりだけが僕らを照らしていた。


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