ちょこおいしい(BL?)

 



今日の目覚めは最悪だった。
部屋の中にまで漂ってくるこのねっとりとまとわりつくような甘い匂い。
きっと朝からお菓子でも作っているのだろう。
いい年した男が休日の朝からキッチンでお菓子作り。
あぁ気持ち悪い。
もう体の中までこの甘ったるい匂いに侵食されてしまったような気すらしてくる。
俺の大嫌いな甘い、甘い……。
とろっととろけて、ねっとりと体の外も内側もこのチョコレートの匂いに犯されているようだ。
家賃が安く済むからという理由で始まった男二人暮らし。
2人で半分の支払いだからと少しだけ大きめな部屋にしてお互い1部屋は自分の部屋がある。
そしてキッチンなどの共有スペース。食事当番は交替制。
折角の休日。甘いチョコレートの香り。
俺は辛いものが好き、アイツは甘いものが好き、そして今日の食事当番はアイツだ。
この辺はの互いの我慢なのかもしれない。
このまま部屋に居ても気分が悪くなるだけだ。とりあえずキッチンにでも行ってコーヒーを飲もう。そうでもすれば大分気が紛れるはずだ。
部屋のドアを開けてキッチンへと向かう。
ドアを開けた瞬間に自室異常に濃いチョコレートの匂いが俺の体を包み込んだ。
「おはよう」
「おう」
キッチンに入るとでかい図体の男がエプロンなんかつけてお菓子作り、しかも歯型の付いているの板チョコまで持っている。
「どれだけチョコレート好きなんだよ」
「あ? いいだろ? 美味いぞ、ほれ」
「ちょ、おま、やめっ……」
食いかけの板チョコをちぎり俺の口の中に突っ込む。
少し柔らかくなっているそのチョコレートが、口の中の熱で溶ける。
とろりとした感触が口の中に広がる。
あ、れ? 思ったよりもまずくない……。
いや……それどころか、なんだこれ?
頭の中がぼ〜っとして、意識が……。
「ん、美味いな」
そうしている間にもアイツはのんきに溶かしてあるチョコを指ですくった。
ボウルにたまっているチョコレートからアイツの指が離れる瞬間チョコレートの糸が引いた。
「なんだ? そんなエロい顔して。そんなにチョコが美味かったか?」
そう言って、指についたチョコレートを口へと運んだ。
おかしい、嫌いなのに……こんな甘ったるい。むせ返るような濃いチョコレートの香り。
なのに、なんでだ……心臓がうるさい。
何をそんなにドキドキしているのだろう。
それに、俺は今どんな表情してるんだよ。
「別に食いたけりゃ、食っていいぞ。いっぱいあるからな」
そしてまた指にチョコをすくう。
もう、限界だった。
体が熱い。火照る。頭がくらくらする。心臓が五月蝿い。
欲しい、ほしい。
甘くて、濃くて、ねっとりと絡み付いて。喉まで残るような……。
口の中が唾液であふれた。
「ちょ、おい!」
ガシャンと音を立ててボウルと、エプロンを着た巨体が倒れる。
アイツの体にチョコレートがコーティングされる。
そのまま俺の体はアイツの上に覆いかぶさる。
チョコレートがたっぷりとかかったその手にそのまま舌を這わせる。
口の中に一気に濃厚な甘い香りが広がる。
暖かくて、濃厚なその甘さに脳が更にぼやける。
体が本能のままに欲している。
「お前どうしたんだよ」
返事もせず、ひたすらに全身についたチョコレートをなめとる。
指の間も入念に、手のひらも、手の甲、服についたものも……首筋に跳ねたのも。
「ほ、ほんとに、大丈夫か?」
こいつの体こんなに大きいんだな……。
多分抱きしめられたら俺の体なんかすっぽりと収まっちまうだろうな。
こいつに抱きしめられたらもっとこの匂いに包まれるのかな。
くそう、いい体つきしてるよな。俺なんかよりも身長よっぽどあるし、筋肉もあってがっちりしてるし。
こんな甘い匂いもして……。
「あむ、ちゅぷ、ぴちゃ……」
子猫がミルクを飲んでいるかのように、舌でチョコレートをすくい、飲み干していく。
その度に少しずつ体が満たされていく。
甘い、甘い幸せが体の内側から染み渡っていく。
どうしてたかがチョコレートにこんなに興奮してしまっているのだろう。
「おい、しっかりしろ! おい!」
突然肩を掴まれてガクガクと揺さぶられる。
視界がぐわんぐわんと揺れてゆっくりと頭の中の冷静さが戻ってくる。
「あっ……ん、んんっ、……う、うわぁっ!」
そして自分の置かれている状態に気づく。
こいつの上にまたがっている自分。そしてなぜかチョコまみれ……そして興奮してしまっている自分の体。
「な、何やってんだ!」
「それは、俺の台詞だから」
別に記憶が無いわけでもない、きちんと覚えている。
自分がどういう状態で何をしたのか。
それが分かっているからこそ意味がわからない。
「体調悪いから、もう一度横になってくるわ」
視線も合わせずに走り出す。
「お前、片付け手伝えよ」
そんな事言われても知るもんか。
なんだよ、今日の俺、どうしちまったんだ。
「はぁ……」
部屋に入り大きくため息をつく。
悪い夢だ。そうに違いない。
ベッドに横になると自分の腕にチョコレートがついていた。跳ねたのがついたのだろう。
指ですくい、軽く舐めてみる。
「美味いな……」
やっぱり悪夢だ。間違いない。
だって、チョコレートがこんなに美味しいはず無いから……。


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